あなたに謳う小さなコラール

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、もう昼だぞー。そんな書類置いといて休憩しとけ休憩。」

 

とっくに昼休憩の時間になっているがなかなか机から離れようとしない私に、

司令室の出入り口近くからブレダ少尉が呆れて私に声を掛けた。

そんな書類、とは云ってくれるが、後もう少しで一連の処理が済む所迄来ていた。

午後からはきりよく次の作業に入りたい。

折角声を掛けてくれた彼には申し訳ないが、もう少し続ける旨を伝えようとした。

 

「ブレダ少尉。しかし、あと少しで終わ…」

 

「じゃあ上官命令で。」

 

云い掛けた所で、突然斜め後ろから大きな手が頭をぐいと押さえつけるように載せられ、

こんな時ばかり地位を濫用する別の声にきっぱりと私の意見は遮られる。

振り向いて顔を見なくとも解る、鼻先を掠めるいつもの彼の煙草の匂い。

 

「……了解致しました。」

 

恨めしさと諦めを押し殺して従順に返事をするも、何だかとても理不尽なもやもやが溜め息になって深く吐き出された。

載せられた手がぽんぽんと子供を宥めるように私の頭を叩いた。

仕方なく後少しで終わる書類を束ねて綺麗に角を揃えてペーパーウェイトを乗せ、

振り返ればにやにやとおもしろがっている事を隠しもしないハボック少尉が紫煙を吐き出していた。

 

「ほれ、、早く行かねーと席無くなるぞ。」

 

「はい。申し訳有りません、少尉殿。」

 

皮肉を込めて慇懃に返事を返すも、ハボック少尉はけらけら笑って私の前を歩いていた。

お前が怒っても全然怖くない、等と何とも失礼な事を云ってくれながら。

 

ハボック少尉と市街巡回に出かけて以降、彼はホークアイ中尉と同様に何かと私の面倒を見てくれるようになった。

あからさまに世話を焼くと云う訳でもなく、ただ普通に、困っていたら手を貸してくれるし、彼が忙しい時は手伝いに駆り出されるし、

暇な時は話し相手になれとばかりに声を掛けてきたし、時折こうして昼食を共にしたりもする。

 

彼はいつだって飄々としていて、自然体だ。

其の態度は私を一人の人間として、同僚としてただ当たり前に扱っていることを意味している。

暫くそんな人間関係が人と人の間に成立するという事を忘れていた私は、何だかくすぐったいような、懐かしいような気がして、

こうしてからかって遊ばれる事もしょっちゅうではあったが、本気で厭だと思ったことなど一度もなかった。

 

そうして居る内に、気付けば少しずつ人と会話をする機会が増えていた。

そうした変化にすぐには気付かないくらい、ゆっくりと、でも確かに、広がっている。

自分が此処に居てもいいと赦されているんじゃないかとさえ思えてしまい、

そうして緩む自律を引き締め直す事もしばしばだった。

 

しかしながら打ち解けていくに従って、それら自律や教育からくる堅苦しさを逆手に取って、からかわれてばかりだ。

教官に特にそう教え込まれたように、私が上下関係に少々弱いところがあるのがわかると、

ああして悪のりしてどうでもいいことに「上官命令」を乱発される始末だ。

 

いちいち反応する私が彼らにとって格好の玩具になっていることを、

どうにも素直に可愛がられているとは受け取り難いものがあった。

司令部に勤務し始めた当初に比べれば格段にくだけてきたつもりなのだが、彼らに云わせるとまだまだ私は「お固い」らしい。

真面目だ真面目だと事あるごとに呆れられるが、

仕事を真面目にするのは当たり前だと反論するも、何故か微笑ましそうな顔をされてしまった。

 

私は実際はそんなに真面目な性格ではない。

勉強も得意な方じゃない。さぼれるものならのんびりしていたいとさえ思う。

けれど、そうしてしまえば、私は私の決意を、正義を、自らの手で穢す事になる。

軍人として所属し勤める事は、私の永劫続く贖罪の一部であり、正義と名付けた意志の体現に他ならないのだから。

 

けれどそんな事はわざわざ彼らに説明するような事でもないし、云うつもりもない。

からかわれるのは少々不本意だけれど、私と関わる事で皆が笑ってくれるのは、本当は何よりも何よりも嬉しかった。

負の感情を抱いている時より、笑っている時間がたくさんある方がきっと幸せなことなのだと私は信じている。

 

だから、マスタング大佐がいつか本当の意味で幸せになれる時が来る迄、

不器用で、厳しくて、その癖甘ったるい程優しいあの人に、私はずっと従い付いて行くのだ。

 

ほんの少しずつ司令部の人々と打ち解ける事が出来てはきたが、大佐と私は相変わらずだった。

仕事上の必要最低限のみしか言葉を交わさないし、私に対して感情を一切排した態度を崩さない。

もともと此の東方司令部を実質的に指揮している程の人物だ、

最近配属されたばかりの下っ端である私は大佐と向かい合って会う事自体そうそう無かったが。

 

しかし、マスタング大佐がそうすることを望むなら、構わないと思う。私は大佐の狗だ。

馴れ合う事を望まないなら私も今まで通り、感情を押し殺して従順に命令に従うつもりだ。

私が大佐を憎んでいないと云う事をいつ伝えればいいのか、気がかりと呼べるものはそれだけだ。問題ない。

 

「食いながらぼーっとするなって。」

 

ハボック少尉がそう云ったのをきっかけに、好き嫌いするなよとかもっと食えだとか大きくなれないぞとか、

彼らは本当に幼い子供にでも対するように、随分と好き勝手な事を云ってくれた。

好き嫌いは特にしていません、ちゃんと食べています、一応まだ背は伸びています、と一つ一つの言葉に律儀に返しながら、

さらにその返答の揚げ足を取ろうと面白がる彼らに、ほとんど諦めを覚えて私はもくもくと食事を口に運ぶことに専念することにした。

ただの生命維持の為の行為でしかないはずの食事を、おいしいと思えるのはとてもうれしいことだと思った。

 

 

 

 

 

 

 

午後の始業開始から暫く経った頃だった。

最近は特に目立った大きな事件や事故も無く、東方司令部にしては珍しく穏やかな仕事風景が繰り広げられていたが、

そんな午後の眠気さえ誘う平穏を切り裂くように、鋭い音を撒き散らすように鋭利な警報が鳴り響いた。

そして、其れに伴って司令室は一瞬で空気を変える。

 

バン、と大きな音を立て、厳しい表情をしたマスタング大佐がホークアイ中尉とともに司令室に入ってくると、

即座に通信系統を担当するフュリー曹長が送られて来た事件の大まかな経過を読み上げる。

街の外れにある倉庫群がテロ組織による襲撃を受けたらしかった。それらの倉庫には現在一時的に軍の武器が保管されている。

そうして机に向かうものもいれば、席を立つ者もおり、それぞれが自分のすべき事をする為に慌ただしく司令室を動かして行く。

その彼らの顔は、まぎれも無く軍人のそれだった。

 

警報を伴うような事件は私が勤務するようになってからは初めての事で、こういう場合どう動けばいいのかはまだ教えられていなかった。

自分がどう動くべきかを判断するにはあまりに経験も知識も少なかった為、慌たださと緊張感の漂う中、何も出来ない自分が悔しかった。

ただ、闇雲に動いても足手纏いになるのだと云う事は経験からもよく知っていた。

何か自分に出来る事は無いのかと焦る気持ちを無理矢理ねじ伏せながら、私はじっと大佐を見つめ、指示を待った。

 

「ハボック少尉は第4小隊を即刻招集して現場に向かえ。

 ブレダの隊は少数精鋭で後方支援を。

 ファルマン准尉、一応周囲に包囲網を敷いておけ。一人も逃がすな。

 フュリー曹長、」

 

「はい。向こうは数は30弱で、そんなに大きな組織ではありません。

 ただ、目撃者の話によると、どうも錬金術師らしき者が一人いるようです。」

 

「厄介だな。よし、指揮は私がとろう。

 この焔の錬金術師に挑むとは、愚かな奴だ。

 とっと終わらせるぞ、私は定時に帰るんだ。」

 

「まぁたデートっすか?」

 

「待ち合わせに遅刻は厳禁だぞ。」

 

「そりゃありがたーい御指南どーも。」

 

軽口の応酬をしながらも、準備をする手はよどみなく動き、ハボック少尉は既に隊を整える為に司令室を出て行った。

大佐は一瞬で眼を通した幾らかの手元の書類を傍らに控える中尉に渡し、中尉は大佐に黒いコートを手渡す。

淀み無いやり取りを見ながらどうする事も出来ずに指示を待つ私をおもむろに振り返ると、大佐は私を強く見据えてすっと眼を細めた。

 

「…伍長。」

 

「はい。」

 

「君も来たまえ。」

 

「はい!」

 

常に身に付けている拳銃と予備弾薬を即座に確かめ、コートを翻しながら颯爽と司令室を出てゆく大佐の背を追った。

此の慌ただしさにまるで既視感のようなものを覚えて、私はぐっと歯を噛み締める。

今は大佐の指示に従う事だけを考えろ、と自分を叱咤する。

気を抜けば、仲間の事、家族の事、銃声、悲鳴、爆音、燃え上がる焔、鉄の匂い、そんなものが脳裏を駆け巡る。

この青い、今では自分が自らの身に纏うこの軍服を、犯す罪悪の名も知らぬままに殺めたあの引金の感触。

 

善悪など所詮は主観的定義付けに過ぎない。

私も軍もテロ組織も、誰も世界にとっての正義ではない。

けれど、今度は私は私の意志で、自分の頭で考え、其の決意故に手を汚すのだ。

この人の為に、ではない。

この人の役に立ちたいと思う、その自分の意志の為に。

 

 

 

 

 

 

 

統率のとれた優秀な東方軍は指揮官の的確な指示の下、倉庫襲撃犯達を確実に追いつめていた。

しかしながらフュリー曹長から伝えられた情報通り、一人の錬金術師の巧妙な反撃のお陰で常よりは少々手子摺っている事も確かなようだ。

私はあまり錬金術については詳しくないが、その錬金術師は石や木などの物質の錬成が得意らしい。

 

私から見れば十分すごい錬金術の使い手であるように見えたのだが、

斜め前に立って不遜に彼らを見遣る、我らが焔の錬金術師に云わせれば「あの程度の小物」らしい。

前線に居るハボック少尉に合図を向けて心持ち隊を下がらせたのを確認すると、大佐は白い手袋の右手を掲げて指を鳴らす。

轟音と、赤々と身を躍らせるやや小さな焔。

焔がいつもより少し控えめなのは、少量では有るが、一応火薬に準ずる類いのものが数個隣の倉庫に保管されているせいだ。

 

マスタング大佐が錬金術を使っているのを間近で見たのは初めてだった。

いつも焔に飲まれる仲間が灼熱の中で苦痛に叫ぶのをどうする事も出来ずに見ていた記憶しか無かった。

いい思い出等あるはずもない。

この赤を見るのは、立つ位置を違えたとていつも無慈悲な戦場の中なのだ。

それでも、その非情な迄に迷い無く燃え上がる焔は、いつだってあまりにもうつくしかった。

 

私はホークアイ中尉と同じく大佐の近くに控え、念の為いつでも撃てるようライフルを構えた。

腰元のホルダーに下げられた拳銃もいつでも取り出せる。

こういう状況には慣れていても、軍人として現場に出るのは初めてである私の手など必要ないかもしれないが、

万が一にも足手纏いにだけはなるまいと強く思う。

其の気持ちだけは何時迄経っても、何処にいても変わらないものだ。

 

「裏手に回るぞ。」

 

先程の焔による隙を突いて、後退していたハボック少尉の隊が一気に責めに転じる。

組織同士の結託が乱れたのが最後、彼らはなし崩しに追い詰められ、捕縛されるしかなかった。

黒い煙が上がる辺りを迂回し、倉庫裏を警戒して窺いながら、先を中尉が行き、大佐、其の後ろから私が続く。

 

所々崩れた倉庫の側面の壁伝いに慎重に進んでいた其の時、

崩れた壁の向こう側、倉庫の薄闇の中に不釣り合いな銀色がちらりと光った。

背中を小さく電流が流れたような感触と共に即座に暗がりへとライフルを向けようとしたが、

既に鋭利なその銀の刃は私の喉元に吸い込まれようとしていた。

 

まずい、やられる。

 

!」

 

咄嗟にライフルの銃身で刃を払い除けようと腕を動かすよりも早く、私の身体は突然強い力で突き飛ばされ、

固い石畳に受け身を取る間も無く身体を叩き付けられていた。

 

一瞬のその時間が何秒にも引き延ばされているように見えた。

 

私を突き飛ばしたマスタング大佐がそのまま相手の刃物をたたき落とすような動きを見せ、

其れとほぼ同時に中尉の一分の狂いも無い弾丸が犯人の刃物を持つ手を正確に撃ち落とした。

本当に、一瞬の出来事だった。

 

身体を打ち付けて暫し呼吸が出来ずに咳き込んだが、私は呆然と地面に手を付いて片膝を付く大佐を見た。

即座に動いた中尉が犯人を取り押さえ、慌ててやってきた二人の軍人に拘束させ、彼はもがきながら連行されていった。

 

「大佐っ、」

 

「ああ、中尉、ご苦労。大丈夫だ、袖が少し切れただけだ。

 …伍長、怪我は?」

 

まだ呆然と大佐を見ている私を怯えているのだと勘違いしたのだろうか、中尉の視線に少しだけ気遣わし気なものが混じっている。

大佐は慌てて私に視線をやり、無さそうだな、と眼に見えてほっと安堵したような顔をして呟くと、

すぐに顔を顰めて、いかなる時も現場では気を抜くな、と、怒鳴ろうと口を開きかけたのが見えた。

 

しかし、その怒鳴り声がくると気付くよりも先に、私は身体が勝手に動いていた。

気付けば、私は今にも泣きそうな顔で大佐の胸倉を掴み上げ、逆に大佐に向かって声を荒らげていた。

ぷつりと頭の中で糸が切れてしまったような、そんな心地だった。

 

「あなたがっ…!あなたがわたしを庇ってどうするんだ!!!」

 

「なっ…」

 

「あなたを守りたい私のきもちはどうなる…!!

 あなたが怪我したらどうするんだっっ!!

 なんでだよ、わたしなんかをかばう指揮官があるかっ、このばかっ!!」

 

「………ば…」

 

あんまりと云えばあんまりな私の唐突な様子に、大佐も中尉も唖然として私を見ていた。

大佐はさりげなく馬鹿呼ばわりされた事に少なからずショックを受けていたようだったが、

すっかり頭に血が上ってしまっている私にはそんな事を気にする余裕は無かった。

 

「わたしはっ…もうだいすきなひとを失うのはいやだ…!!!」

 

視界はぼやけていたが、涙はこぼれなかった。

それだけが救いだ。

胸が詰まって息苦しくて、それでも勝手に口を付いて、考えるより先にするりと出て来たその言葉に、

私が自分でも気付いていなかった、私の本当の気持ちが現れていた事を頭の隅でぼんやりと理解した。

 

ああ、そうか、ずっと最初からそうだったんじゃないか。

私はなによりも、ただ何も失いたくないだけだ。

 

 

云いたい事を云いきり、大佐の胸倉を掴んだまま俯いていたが、誰も何も言わず、凍り付いたような沈黙が流れていた。

あちらこちらから聞こえる撤収を呼びかける応酬や犯人達の悪態や忙しない足音がざわざわと聞こえてくるのに、

此の三人のいる空間だけがやけに静かで、その静けさに頭が冷えて我に返った私は俯いたまま身動きも出来ず、ものすごく焦っていた。

 

どうしよう。

上官であるロイ・マスタングに助けてもらった挙げ句に胸倉掴み上げて怒鳴った上、どさくさで「ばか」とか云ってしまった。

どうしよう。

どうしよう。

どうし…

 

。」

 

低い声で名を呼ばれ、俯いたままびくりと肩を揺らす。

軍服を掴み上げていた手から力が抜けてゆき、ぱたりと自分の膝の上に両手を落とした。

指は強張ったように動かなかくて、掴み上げていたそのままの不自然な形をしていた。

指先は血の気が失せて白くなっている。

俯いた顔が上げられないので大佐がどんな表情で私を見下ろしているのかは解らなかったが、視線だけはひどく熱く感じていた。

 

「私は君の『だいすき』だった仲間を皆殺しにした。」

 

それでも私を守るか、と暗に問うのだ、この人は。

愚問。ああ、それは愚問だ、ナンセンスだ、何て答えの解りきった愚かな問いだろう、ロイ・マスタング!

あんなに人心掌握の術に長けた貴方なのに、私の下手な演技ひとつ見破れないというの。

 

「……『マスタングさんには、だいじなひとが、いますか。』」

 

「…」

 

「…わたし、いったじゃないですか。

 たくさん、だいすきなひとは、たくさんいるって。

 マスタングさんも、だいすきだって…。」

 

一年前迄は知らなかった。知ろうともしなかった、此処にもやさしいひとたちがたくさんいること。

何処かで何かを間違えて、あんな結末しか迎える事が出来なかったけれど、

私は確かに仲間達が大好きだったし、敵であってもマスタング大佐もだいすきだったし、

こうして関わってみれば軍人達にもやさしいひとはたくさんいて、今では皆がとてもすきだった。

其の気持ちを、無かった事にできるはずがないのに。

 

「…嘘…憎むだなんて…嘘だったんですよ最初から。

 だって、あなたみたいなやさしいひとを、どうして憎めるって云うんですか。」

 

そうだ、憎める筈が無いんだ、私に自ら憎まれたがって自嘲するようなひとなんて。

 

私は顔を上げ、複雑そうな眼の色をした大佐を見上げた。

泣きたい気持ちで少しぎこちなく微笑んでみせる。

私はまだ笑うのが少し苦手で、此れが精一杯だった。

 

「…今此処で改めて、私は貴方への絶対の忠誠を誓います。

 私の命に、誓います。

 貴方がいやだと云っても、私は貴方に従い付いて行きます。

 強いられたからではなく、私の確固たる意志によって。」

 

そう告げるだけ告げて、私は深く深く頭を垂れた。

それ以上に礼を尽くす術を私は知らなかったから、私の出来る精一杯の敬意のつもりで。

 

 

「大佐、もう撤収作業の方は終わったんスけど、どうします?」

 

一段落付いたのを見計らったかのように、絶妙のタイミングでハボック少尉がのんびりとした声で大佐に声を掛けた。

其れを聞いて即座に頭を切り替えた大佐は、少尉にいくらかてきぱきと指示を出し、ホークアイ中尉に声を掛けて車を出すよう指示した。

 

伍長。」

 

少尉がいつものような調子で私の頭にぽんと軽く触れ、自分の隊の方へと戻って行くのを静かに見送っていると、

マスタング大佐に呼ばれたので、私はゆるゆると立ち上がり、車に向かって歩き出した中尉と大佐の背を追って歩き出す。

どんな顔をすればいいのか解らなかった。

大佐が何を考えているのかもわからなかった。

 

「存分に働いて貰うからな。覚悟しておきたまえ。」

 

斜め後ろから見上げながら窺うと、なんでもないような涼しい顔をして、マスタング大佐はそう云った。

単純に、ただ、嬉しかった。

気が付けば、私は久し振りに心からの笑顔を浮かべていた。

 

「…Yes,sir!」

 

そして、教官に教え込まれた通りの、綺麗な敬礼をひとつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

next.

(08.10.3)

 

 

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