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先日の略奪行為のほとぼりも覚めてきた頃、私はこっそりあの隠れ家から回収したお金を、
いつものように全て孤児院や病院などに差出人不明として送った。
最初の頃は自分の分け前というのも存在したのだが、
そもそもこんな行為を始める切っ掛けとなった「共犯者」が姿を消して以来、私が奪った金品に手をつける事はなかった。
昼間はきちんと働いているので経済的には困っている訳でもないし、
何より人から盗んだものだと云う意識が強くて相変わらず私の良心の呵責は止まなかったからだ。
小心者な性質は70年経とうともそうそう変われるものではない。
「共犯者」の事を思い出すと、どうしてあんな誘いに乗ったのかと未だに其の時の自分を不思議に思わずにいられなかった。
「共犯者」、と云うよりは事実上「主犯」と云った方がニュアンスとしては正しいのだが、
一人になってなおこんな事を続けている以上、私はあの人の事を「共犯者」と呼ぶことにした。
あの人とは今から10年程前に知り合った。どうしてそんな経緯になったのかは実はよく覚えていないのだが、
多分私もあの人も多少アルコールが入っていて、どうしようもない計画をしたあの人と、
そのどうしようもない計画に乗ってしまった私のどうしようもなさが重なってしまったせいだろう。
酔いが覚めた後も、「共犯者」は私に周到に練った犯罪計画を持ちかけた。
勢いであったとは云え、やらないとはもう云えなかった私は、
半ば自棄になって其の計画に乗り、その上其の計画が成功してしまったから予想外だ。
あまりにあっけなくて、思わず顔を見合わせて笑ってしまったのを良く覚えている。
「共犯者」は完全に愉快犯だった。1年に数回、もしくは1回、もしくは全く動かなかった事もあった。
そうして7年が過ぎた時、「共犯者」は全く姿を見せなくなり、連絡もつかなくなった。
そんなに親しかった訳でもなく、お互いの住んでいる場所も実を云うと知らなかった。
ただ、噂で、病死した、と聞いた。あの人の事だから、きっと病に蝕まれつつも笑い乍ら死んで行ったのだろうと思った。
そんな人だった。
でも何処かで、まだ生きているのではないかと思えて仕方がなかった。
それを確かめたくて、私は再び一人で計画を実行し、其の延長線上で今もこうして燻っている。
頻度は随分と落ちてはいたが、それでも年に一度は思い出したように実行される略奪に、軍の方も訝しむと共に苛立っているかも知れない。
わるいことだとわかっていて何故それでも止めないのか、私にももう理由など分からなかった。
「共犯者」なら、其の理由がわかるだろうかと考えて、ばかな考えを頭を振って打ち消した。
ふと、意味もなく悲しくなった。
ヴァン・ホーエンハイムもきっとこんな気持ちにもなったのかもしれない。
自然の歯車から弾き出された為に、いつだって自分は置き去りにされるしかないのだ。
何時か来る「物語」の最後を見たら、その後はどうなるのだろうと考えるのが恐いのだ。
物語の登場人物達はきっとどうにかなるように思うけれど、
此の世界の異物であり登場人物にも傍観者にも徹し切れない私は一体どうなってしまうのだろう。
本当に、いつか、しねるのだろうか。
(08.9.16)
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