先程から相変わらずのいつもの仏頂面で黙っている屑桐を、横から真直ぐに、
彼が厭でも視線を痛く感じるようにわざとらしく直視していた。
「賭けは俺の勝ちだ。」
賭けとは、先日行われた全国模試の結果の事だ。
屑桐も頭は悪く無いが、今回の此れは確かに俺の勝ちである。
「おい。」
屑桐は依然何処を見ているのかわからない眼で黙っていた。
やや俯いているようにも見えるが、
馬鹿みたいに晴れた暑苦しい空を遠い眼で眺めているようにも見える。
空の青色と境界線を引きたがる白い入道雲が、傲慢なスタンスで風に走っていた。
爽やかと云うよりは、むしろ俺にとって今日の空は幾分煩わしい晴れ方をしている。
「聞いてんのか、屑桐。」
悔しい事に、野球では俺は屑桐に全く適わないが、
ユニフォームを着てもいなければ此処はグラウンドでも無い。
(ついでに云えば成り行きで行った賭けに勝ったのは、俺だったりする。)
俺は屑桐に無造作に声を掛け続けていた。
「何とか云えっつの。」
投げ遺りに云って、また暫く屑桐の無表情の横顔にわざとらしい視線を刺していると、
彼はようやっと小さく口を開いた。
「…いい天気だ。」
的外れもいいところだ。
俺は途端剣呑な目付きを細めて屑桐をしらっと眺め、
屑桐が折って足下に転がしていた赤い紙飛行機を無造作にかっ攫うと、
奴の頭に向かって投げた。
(04.11.20)
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