07 戦友(ヒューズ中佐/イシュヴァール殲滅戦時)


焼け野が原は何処迄も続くらしい。

一体錬金術師である我が友人はどこまで焼き尽くさんとするつもりなのだろうか。

疲れた苦笑を頬に張り付けて、血と灰と土と何かの機械オイルに塗れた軍服で歩いていた。


壁しか残されていない黒焦げの、家だったものは、まだ弱く燻る業火の爪痕。

この一帯を焼いた彼は、別に此処の何を憎んだわけではない。

ただ、時勢はあまりに激しく歴史を書き綴る。

世界の波はあまりに大きく、ちっぽけで愚かな人間共を易く飲み込む。


そんな当たり前に歪んでいった歴史と社会のセオリーを考えてみても、

どうにも塞がったこの喉は不思議と感傷という浅はかさを孕んでいた。

(微かな熱風の残滓が、埃塗れの黒い喉を焼くかのように熱かった。

 ちくしょう、ロイめ、焼き終わったらてめぇの焔くらいてめぇで消して帰れ。)


改めて見渡せば、壁だけの家が疎らにあるだけの平らになってしまった黒い土地の一帯では、

もう何もかもが燃え尽きて、弱々しい別れの匂いが立ち上っていた。

地の黒と空の青、なんて皮肉な美しさだろうなと、皆、思いやしないのだろうか。


「お、あった、あった。」


ふいに落とした視線の先に、幸運にも此処へ来た目的のものが無造作に落ちていた。

焼け焦げた樹の幹の残骸に寄り添うように横たわる、黒い人形。

いや、人形では無いが、炭化して翳した手がもろく風に崩れる様子を見ては、

とても屍体と呼ぶ気になれない。人間なんて死んだらこんなもんだ。


はは、と渇いた声で一人きりで笑えば、また少し黒焦げのそれは風に削れていく。

これが誰の身体だったものなのかは知らされておらず、ただ屍体を確認して来い、

と云われただけなので、弔う事もできないような気がしていたが、

取り敢えず胸の前で十字を切って、足で踏みつぶして人の形を踏み崩した。


「これでおまえさんは自由だな。おめでとう、我らが戦友。」


麻痺した感覚が不思議と惜しく無かった。






(04.1.29)


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