06 家族(マスタング大佐、フュリー曹長)


家族はまだいらないと思った。

その考えが間違っているとも思わなかった。

そして、誰に私の理論を否定でき得るものかと、少し嫌気のさした顔で笑った。


「大佐は結婚などはなさらないんですか?」


気弱そうな眉をなだらかに下ろし、少しはにかむようにフュリー曹長が珍しく話し掛けてきた。

偶然他人がいないこの休憩室に居合わせたものだから、彼は居心地が悪くなったのであろう、

何かしら急造の話題を振って来たらしかった。

もしかしたらそういう疑問が前々からあったのかもしれないが、そんなことはどうでもいい。


「ヒューズのようなことを云うな。

 だが、まぁ、今は考えていないね。そういう曹長はどうなんだね?」


「えぇ?僕ですか?」


同じ質問を返される可能性だって考えられなかった訳では無いだろうに、

彼は素頓狂な声で、初めてその質問を与えられたかのように驚きを表した。

そして少しあー、とか、うー、とか、声にならないうめきで困惑していたようだった。

別に困らせてやろうとして質問を返した訳でも無かったので、別にいいという風に手を振った。


家族はまだいらない。

自らの志にただ手を伸ばすだけの自分に、一体自分以外の誰を守ることができるだろうか。

情けないながらも、余裕の無さに対しての自覚が無い程身の程を知らない訳では無い。

だから私はいらない。


私はよほど厳しい表情をしていたようだった、フュリー曹長がおずおずとこちらを窺っていた。

そして、少し困ったような顔で曖昧な笑みを浮かべると、私に会釈して立ち去ろうとした。

また仕事に戻るのだろう、昨日から何故だか厄介事ばかりが舞い込んでくるのだ。

労をねぎらう言葉を掛けて彼を見送った。私はもう少しここにいるつもりだった。


家族はまだいらない。

それほどに人を愛する事も無い。

ただ全てが終われば、その時は誰かを一人だけ愛せるかも知れなかった。


そういえば、家族だったひとたちは、愛していたひとたちは、今一体どうしているのだろう。






(04.1.29)


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