23 ありがとう。(マスタング大佐/イシュヴァール殲滅戦時)
いっそ笑い出しそうな気持ちで地面を軍靴で踏みにじる。
頭が酷く痛くて、喉はからからに乾き、砂埃を吸い込んだ肺が悲鳴を上げていた。
からっぽの胃の腑はきりきりと痛み、けれど其の痛みがあるお陰で逆に眠気は引いて来た。重畳。
「ありがとう。ありがとう。ああ、どうもありがとう。」
口の中でぼそぼそと呟きながら、「何か」の炭化物質を不器用に除けながらふらふらと蛇行して歩いていた。
何処へ行くのだったか。ああそうだ本部へ。
のどを潤して弾丸を補填し新しい発火布を予備に持ち再び配置へ向かうのだ、そう最前線へ。
ああでももうこの辺りには生きた敵がもう殆ど残っていない。味方しか居ない。
私が燃やすべきものは何処だ。
よろけた弾みで異臭を放つ真っ黒な炭化物質を踏みつけた。
「ああ、ほんとうに、どうもありがとう。」
恭しいお辞儀こそ付けなかったが、私はいよいよ渇いた笑い声を零した。
まだ残り火の燻る崩れた建物からの熱風が皮膚を炙る。
「ありが、と、う。」
脚からふっと力が抜け、私は地面に跪いて厭な汗が滲むのを気付かない振りをして、頭を抱えた。
唇がやけにべたつく。眼が渇く。喉が貼り付いて吐き気がした。
「あ、りが、とう…!」
さぁ、その焼け焦げた眼で、口で、もっと私を怨んではくれまいか。
自虐がなんになる、だなんて、愚問だ。そうだろう?
(10.2.11)
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