21 別離(エドワード、マスタング大佐)


次なる手掛かりの地へ赴く為の列車を待つ間にと、

厭々ながらも東方指令部指令官に連絡する為、公衆電話の受話器を取った。

耳に受話器を当て乍ら、少し離れた場所から躊躇いがちにこちらを窺うアルフォンスに、

先に乗車予定の列車に乗っているよう手をひらつかせた。

彼は少し逡巡したがすぐにこくりと頷き、蛇のように連なる車両の内の一つに乗り込んで行った。

 

弟の姿が扉に飲み込まれたのを確認したところで、司令官室と唐突に回線が繋がった。

わたしだ、と横柄な物云いが耳に転がり込むのを聞けば、反射的にぎゅっと眉間に皺が寄る。

何とも不快指数の高い声だ。

 

「あんたの情報ガセでした。次行ってきまーす。」

 

わざとらしく早口にそれだけを伝えさっさと電話を切ろうとすると、

笑い混じりに其れを引き止めるのが聞こえた。

 

「まぁ待て、鋼の。折角久し振りの電話じゃ無いか。そう焦る事も無かろう。」

「こっちはあんたみたいに暇人じゃないんでね。」

「心外だな、わたしとて多忙な身なんだよ。

 貴重な時間を割いてでも君を労ってやろうと云うわたしの心遣いじゃないか。」

「人を口実にさぼってんじゃねぇよとっとと仕事しろ、この給料泥棒。」

 

むすっとして一息にそう云い捨てると、

吹き出したいのを押さえるような笑い声が再び聴こえてくる。

彼と話している事は兎角いつもこんな感じなのだが、

今日は其の声音に、どうにも妙な違和感があった。

彼らしからぬ、人間臭さと云うか、何処か嬉しそうにさえ感じられるものが。

 

「…あんたさ、熱でもあんの?」

「おや、心配してくれているのかね?」

「そのままくたばれ。」

 

ははは、と厭味な笑い声が聴こえて、ふっと一瞬間が開いた。

不審に思って口を開こうとすると、彼の方が先に話し出す。

 

「君が何処にいるか知らないがね、こちらはとても晴れているよ。」

 

僅かに懐かしそうに声を低めて、受話器の向こうでかたりと窓が軋む音がした。

その音程を耳にして、俺はこうして電話してしまった事をとても後悔していた。

苦いものが胸中を這う。

 

俺は彼のこんな物云いを聞くべきでは無かったし、彼は俺にこんなことを云うべきでは無かった。

彼はきっと電話をする相手を間違えている。

 

俺は彼の友人ではないのだから。

 

受話器の向こう、晴れた空に背を向けて穏やかに笑う彼を想像して、俺は寒気がした。







 

(15.6.10)


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