20 古戦場(マスタング大佐)
「赤子の泣き声が聞こえないか。」
斜め後ろに立つ部下にそう云うと、彼女は怪訝そうな顔をして私の其の言葉をきっぱりと否定した。
まぁそうだろうと思っていたので私はただそうだねわたしのきのせいだと笑みを貼り付けて同意した。
彼女は更に不可解そうに、否、むしろ不安そうに見える表情を眼の色に乗せた。
あつい風に煽られて渇いた地面は草木の一本も無く、砂と石の世界は何だかとても白々しい空虚さを演出する。
”ここではなにもおこりませんでした、なにもありませんでした。”
嘘を吐け。
あれ程の地獄を見た癖に。あれ程の業火に焼かれたくせに。あれ程の血を飲んだ癖に。
嘘を吐け。嘘を吐け。
私はこの埃っぽい風に責められようとも知らぬ顔をして嘘を吐く。
吐いた嘘は砂と石になってまたざらざらとのさばっていくだけだ。
もし此処が、耳鳴りする程静かなら狂ってしまいかねなかったが、生憎と此処はごうごうと風の音がうるさく、
また、私は自分の鼓動が内側から私に音を伝えるのを聞き飽きる程聞いていたので、
狂う事は出来なかった。残念ながら。
大地と云うものは嘘吐きだ。
私が敷いたあの屍の絨毯は何処へ行った。私が引いたあの血の河は何処へ行った。
これでは、まるで、此処があたかも”平和”であるかのようにみえるではないか。
ああ、其の癖、風ばかりが私を責め立てる!
現在は過去によって復讐されている
もうずっと 復讐され続けている
(10.2.11)
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