02 戦闘訓練(ホークアイ中尉、ハボック少尉)
ねぇリザ、銃を構えたら撃たねばならない、撃ったら殺さねばならない、それが面倒なんだよ。
士官学校時代の、もう顔も覚えていない友人が云ったその言葉の意味が、未だにわからない。
厭だと云うのならまだ理解もできる。が、面倒というのは一体どういう意味だったのだろうか。
射撃場の硝煙のかおりは、皮肉なことに今では慣れ親しみを感じるものだ。
人間の感覚なんて少しの匙加減で簡単に狂ってしまうものだし、
出来の良すぎた適応能力は正義と殺戮の区別を曖昧に霞ませてしまう。
私はまだ大丈夫だ。目指すべきものがある。守るべきものがある。譲れないものがある。
ただ、このかおりの、人を狂わせた過去が少なく無いことが、漠然とした澱みを感じさせる。
「相変わらずすごい腕前っすね。」
骨を打ちのめすような射撃の反動を身に嚥下していると、
ハボック少尉が、私が先程撃った的を眺めて感心とも呆れともつかない言葉を投げていた。
「少尉が此処にいるなんて珍しいですね。」
「そうですねー。でもやっぱりやらないと腕が鈍りますしね。」
抱えたライフルでとんとんと二度肩を軽く叩き、私の隣で的を狙い始めた。
彼はいつも銜えている煙草が無いのが口寂しいのか、一瞬唇を舐めて、引き金に指を掛けた。
ねぇリザ、銃を構えたら撃たねばならない、撃ったら殺さねばならない、それが面倒なんだよ。
だるそうにいとも簡単にライフルを撃ち放ち、的を見遣るハボック少尉を横目で見ながら、
何となく昔の友人の言葉の意味がわかった気がしていた。
私は銃を構え、引き金に指をあてがい、狙いを定め、一気に指を引いた。
(構えたら指を掛けろ、指を掛けたら狙え、狙ったら撃て。)
嗚呼、確かに面倒だ。
私は自然口元が歪むのを感じていた。
(04.1.29)
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