14 デスクワーク(マスタング大佐、フュリー曹長)
こうやって机に向かう不毛な時間を全て放り投げてしまいたいけれど、
いつでも銃を取り出せるように構えた隙の無い彼女がいるのでそれも出来ない。
第一、これも仕事で、これをこなさなければ目指す地位等夢のまた夢だ。
わかってはいる。わかっては、いるのだが。
「失礼します、大佐。」
丁寧なノックに入室許可を与えれば、物腰も低く穏やかに扉が開けられた。
扉を開けた穏やかで真面目そうな青年は2、3の青いファイルと薄い書類の束を抱えていた。
「どうかしたかね、フュリー曹長。」
そう問うと、ふと私を其の視界に捉えてぎょっとした顔をしたが、
すぐに彼は平常に戻り、控えめに微笑みながら手にした資料のことを説明した。
私は一つ頷いて彼の差し出したファイルと資料を受け取り、
いくつかの事項を点検してサインをし、彼に返す。
ありがとうございます、という彼は清々しい程爽やかな笑顔だった。
「…どうでもいい事だが、曹長はデスクワークが好きなのか?」
「は?…あ、いえ、すみません!
えっと、そうですね、僕はデスクワークは嫌いじゃないですよ。」
理解出来ない、と云うように私が大袈裟に驚いたという仕草をすると、
青年は困ったようにはにかんだ。
「もちろん現場の方も大事なお仕事ですし、やりがいはありますけど、
でも、机に向かって書類をチェックしたり、資料を見比べたりするのは、
そんなに嫌いじゃ無いです。」
銃を構えるのが嫌いなのか、という問いを、ひたすら穏やかに笑む彼を見て私は飲み込んだ。
きっとこの問いは軍人にするに相応しく無い。
返答を聞く必要も無い。
「あぁ、引き止めて悪かったな。」
「いえ、気に為さらないで下さい。…頑張って下さいね。」
会釈してフュリー曹長が部屋を出ていくのを見送った後、私は溜め息を吐いた。
「まぁそりゃ頑張るがねぇ。しかし、間に合うかなぁ…」
頬杖を付きながら、机の両端にびっしりと積み上げられた夥しい数の書類を眺めて、
もう一度深い溜め息を吐いた。
(04.1.30)
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