13 煙(ヒューズ中佐、マスタング大佐)


焼けた街の色は滔々と気流に飲まれる黒煙に等しい。

それが美しいと思われ出すのならば、自分の限界が近い事を悟らねばならない。


曉を背景に、窓に病気になりそうな迄に汚れた煙突の煙の病んだ色を見て、

思い出す由も無いことをつらつらと脳裏に並べ立てた。

これも全て昔のことに終わればいいのだ。

自分にとっての幸福の象徴である妻子の写真を、自身を浄化しようとするように瞼に浮かべる。


かつて街を焼いた親友は、酒に飲まれた際にぼそりと、自分は汚濁していると云った。

言葉の響きは救い様の無い自己への絶望を孕み、それを呟く事で彼は自分を殺そうとしていた。

正しくは彼は死ぬつもり等毛頭無いのだが、

アルコォルで強固な意志の皮を取り除けば、至極人間らしい罪悪感が剥き出しになるらしい。


彼に自覚は無くとも、こういう一面を見せられた時、ふと鋭利に抉りたい気持ちにさせられる。

それは彼の持つ空気に独自の、サディズムの誘発なのだろう。

言い換えればつまり彼は、根底が自虐的なきらいがあった。


「おーい、ロイ。もう夜が明けたぜ。起きろ。酔い潰れてんな大佐さんよぉ。

 あーもう10秒以内に起きねぇとナイフの的にするぞこら。

 おれは早く可愛い可愛いエリシアちゃんに会いてぇんだよぉ。」


投げ遺りに云い、酔い潰れてカウンターに突っ伏したロイを揺さぶり、

彼が座る椅子をがんがんと足で蹴った。

カウンターの向こうでグラスを片付けていたバーテンダーが迷惑そうに俺を横目で窺った。

あはは、と愛想笑いをすると呆れたように彼はグラスの片付けを淡々と続けた。


はぁ、と溜め息を吐き、起きる気配の無い親友の頭を軽く叩いて、

グラスに残っている温くなったアルコォルを一気に流し込んだ。


早く起きねぇと、今度はお前が焼き殺されちまうよ、と、呟く声は声にならなかった。

ヘリオトロォプに染まる明けた空を無感情に見上げながら。






(04.1.29)


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