12 死(エドワード、マスタング大佐)


考えた事の無い事象について唐突に質問される事はひどく狼狽を誘う。

錬金術とは何か、此の世の理とは何か、そんな俺達の科学への質問ならば、

何かしらの答を用意してすぐに取り出す事だってできたはずだった。


「顔色が優れないようだが。」


焦点の合わない眼で、陽の光を受けて眩く輝く噴水を眺めていた俺の顔を、

云いながらマスタング大佐が戯けて覗き込んだ。

この軍人はいつもいつも俺の神経を逆撫でする。

狡い大人の代表のように感じられてしまうのは、彼自身の振舞いの招いた事でもある。


「別に。考え事をしてただけだ。」


「そうかね。」


俺は素っ気無く云ってふいと顔を逸らし、思いきり眉を顰めた。

くつくつと隣で笑う男の存在を意識から消そうと努めた。


それにしてものどかな日だ。

こんな日はいろいろな楽しかったことを思い出すので、好きじゃ無い。

楽しかったことを思い出せば、必ずその後に傷を抉るような記憶の切先を思い出すからだ。


先程大佐の市街巡回に付き合わされた際、俺は街中で出会ったとある幼い少女に、

途方も無く深い亀裂の先にある事象の理由を問われた。

人は何故死ぬのか、と少女は無邪気に瞳を輝かせて云う。

俺はついに答えられなかった。

大佐の困惑した微笑も眼に入らなかった。


はぐらかす為の言葉ならいくらだってあったし、別に抽象的な言葉で創造してもよかった。

だのにあまりにそれは唐突で無垢だったので、引き出しの鍵を上手く抉じ開けられない。


俺はまだ子供だが、それでもあの頃に比べれば随分と大人になってしまったと思う。

少女の無垢な眼が、死をどのような色で捉えたのかがわからなくなっていた。

俺が感じるような痛みなんかの捏造された偽装よりもよっぽどシンプルに、

ただそのままの色を覗き込んでいるのかも知れない。


そういう意味では、子供とは特権に満ちた生き物だ。

俺は周囲の広場から聞こえる子供達のはしゃぐ声を聞いて少しメランコリーを感じた。


もう一つ、隣に腰掛ける軍人の存在を思い出して、更に加えて頭痛も感じたのだが、

それはまた俺が今思考することとはまったく別の次元に存在する事象である。






(04.1.29)


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