11 人殺し(エドワード、マスタング大佐)
「鋼の、恐いのか?」
にやにやした顔で聞いてくる大佐を俺は睨み返した。
だがしかし、この男の問いに答える術は俺には無い。
此処で否定すれば、嘘になる。
此処で肯定するには、俺はもうあまりに「こちら側」へ踏み込み過ぎていた。
「わからん。でも、迷いは無い。」
正直なところを静かに呟けば、大佐は先程からの自信と厭味に満ちた笑顔を、
少しだけ複雑そうに歪ませて顳かみを押さえた。
きっと彼は俺が戦に狩り出される事等なんとも思っちゃいないんだろう。
其の癖こういう顔をするのは、ひどい矛盾であり、卑怯なことだと思った。
「戦は生易しいものではない。
躊躇えば君が死ぬ。殺さなければ殺される。
そういう場所なのだ、戦場とは。
人を殺せるか?他人を踏み付けて尚笑えるか?
なぁ、鋼の。」
両手を顔の前で組み、無表情で俺に問いかける大佐に苛ついて仕方が無くて、
俺は冷たい熱に突き動かされながら大佐の胸ぐらを掴んでその涼しい顔を殴り倒した。
生温くじわりとする拳の感触は驚く程に心地よい。
「あんたはこう呼ばれるのは恐いか?
『人殺し』!」
やけに落ち着いた頭で、もう一度だけ彼を殴りたいと、俺は考えていた。
(04.1.29)
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