01 はじめまして(マスタング大佐)


窓を見下ろせば素っ気無い渡り廊下に真新しい軍服を来た青年が2、3歩いていた。

まだ身体に馴染まない彼等の軍服の青さがやけに浅はかに見えて、無意味な眩しさを思う。


思えば高みへと上り詰めることを決意した時から幾年経っただろう、

出発点から臨めばそれなりに上への階段を駆け上がって来た。

しかしまだ部下を恐れる時ではない。

今は、畳み掛けるような揚げ足取りの上官共を狡猾な笑みをもって交わすだけだ。


様々な過去の記憶の連鎖に思考を絡め取られて、私はただ自嘲の笑みのみを浮かべる。

感傷に浸るにはまだ足りない。目指すものにはまだまだ手が届かぬ。

思い出したように頭を冷徹に落ち着かせ、空を睨んだ。


聞き慣れた音質の靴音が聞こえ、直に扉を叩くのが聞こえる。

入れと扉の向こう側に掛ける声は自分でも笑える程に限り無く軍人そのものだった。


「失礼します。大佐。新入隊員の名簿をお持ちしましたが御覧になりますか。」


「あぁ、見させてもらおうか。ありがとう、中尉。」


ホークアイ中尉が毅然とした歩みでデスクへと名簿を渡しに来た。

差し出されたそれを受け取り、たいして興味も無さそうにぱらりと捲る。

どうでもいいような名前ばかりだと皮肉に笑い飛ばしてしまいたいような心地がした。


「どうかなさいましたか、大佐。」


訝しげに尋ねる中尉を見た所、私はどうやら奇妙な感慨を表情に現していたらしい。

ふっと笑い、何でも無いと告げて、名簿を未練無くデスクに放り投げた。


「まぁ、はじめまして、とでも云っておこうか。」


型通りの薄笑みを浮かべて頬杖を付く。

中尉はただ何も云わずに投げ捨てられた紙切れを見下ろしていた。






(04.1.29)


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