Soiree -un epilogue-
数十年の月日が流れたある年のこと。
ひっそりと闇に沈む壮麗なグランコクマ宮殿、その、一番空に近い、屋根の上。
誰もいない筈の其処には、とある白い人影があった。
少女の姿をしたその人影は、白く頼りない手足を縮めて踞り、星屑の瞬く濃紺の夜天をぼんやりと見上げている。
夜風に遊ぶ前髪の隙間からは、額に生えた一対の小さな角を覗かせて。
耳元には、甘い芳香を放つ真っ白な花が一輪、飾られていた。
誰にも気付かれず、誰にも気付かせず、少女はただただ、静かに其処に存在していた。
ふいに、少女が髪に挿した白い花が、ほろりと崩れるように輪郭を失い、夜に溶けて消えて行く。
「………おやすみ、ぴおにー。」
ぱたり、と。
小さな水滴を一つ二つ零して、少女が微笑んだ。
涙を零していると云うのに、少女はひどく幸せそうに、耳元を押さえて俯き、微笑んだ。
ざっと、夜風が舞い上がる。
そうすると、一瞬で小さな人影はすっかり掻き消えて。
残されたのは、小さな涙の痕ばかり。
少女の姿は、もう、何処にも無かった。
翌日、グランコクマの街には、ひどく温かい、やさしい雨が降ったと云う。
→後記
(11.3.10)
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