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私が東方司令部に勤務するようになって、暫く経った。
私が一年前迄反軍組織に所属していたと云う過去は公にはされていなかったが、
司令部内には其れを知らぬ者の方が少ないらしかった。
人の口に戸は立てられぬ事はよく知っているし、あれだけの罪悪を犯しておきながら、
過去を知られずに善く遇されよう等と云う厚かましい事はもちろん考えていない。
けれど、こうも司令部内を歩く度に好奇や嫌悪や疑念の視線に晒され、
ひそひそと声を潜められると、流石に私も気が滅入って仕方が無かった。
無表情を作る事にはもう随分慣れていたので、
なけなしの矜持を持って何とか気にしないふりをして、背筋を伸ばして歩くのが精一杯だった。
ただでさえ何もかも初めての仕事に慣れるのに手一杯でもあったし、
だからこそ思考はぐるぐる巡り私は頭がどうにかなってしまいそうだと思った。
ミスをする事だけは何とか免れてはいたが、簡単な資料整理やタイプライターでの書類の清書など、
簡単では有るが初めての作業に戸惑い、与えられた仕事をこなすだけで其れ以外の事に迄頭が回らない有り様だった。
司令室の一番隅に設えられた自分用の机に向かって、必死でばらばらの書類を整理しながら格闘していると、
ふと、ほろ苦いコーヒーの香りがして、顔を上げると同時に机の上に温かい湯気のくゆるカップが置かれた。
慌てて振り返ると、自分の分のカップを片手にホークアイ中尉が私を見下ろしていた。
上官にあたる中尉にコーヒーを入れさせてしまった事に気付き、しまった、と私は思わず保っていた無表情を崩してしまった。
「えっあっ…す…すっ…すみませんっ…ありがとうございます…!」
眼に見えて慌て出す私を見て小さく笑いながら、中尉はお疲れ様、と私を労った。
私はどうにも突然の事に対しての対応が下手で、
咄嗟にどうすればいいのかわからなくなり、首を横に振る事しかできなかった。
逃げ出した平常心を何とか捕まえて縛り上げ、
私は気を取り直して苦笑する中尉にもう一度謝罪とお礼を云った。
司令部勤務を始めて此の方、私は何かと中尉には苦笑いさせてばかりだ。
「…申し訳ありません、ありがとうございます。」
「どういたしまして。…仕事の方は、どうかしら?
まだすぐには慣れないだろうし、こればかりは少しずつ覚えて行くしか無いわね。」
「はい。でも、中尉が丁寧に教えて下さるので、随分やり方は覚えられるようになりました。
作業も遅くて、まだあまりお役には立てないのですが、もっとしっかり仕事をこなせるよう、精一杯頑張ります。」
「…大佐にも聞かせてあげたいわね、その言葉。」
しみじみとそう呟く中尉に、今度は私が苦笑いを零す番だった。
こうして働き始める迄は、私はマスタング大佐の事はテロで対峙している時の有能な指揮官の顔と、
公園で出会った時のような女性に向ける笑顔くらいしか知らなかった。
毎日東方司令部に出勤するようになり、何だかマスタング大佐と云う人の普段の顔が少しずつ解るようになってきて、
総合的に考えるとますますよく分からない変わった人だなぁと思うようになった。
それでも、呆れながらも決して部下達が彼の元から離れて行く事が無いと云う事実に、
ロイ・マスタングと云う人間には一種のカリスマのような、人を強く惹き付ける何かがあるのだろうと思う。
思えばとっくに私もその一人になっている自覚はあった。
私はマスタング大佐の眼に、理不尽すら飲み込んで自らの意志の血肉とするような強かさを見た。
だからこそ私は大佐を信じる。自ら選んで軍人と成り、迷わずに従い、あの人に存在意義の全てを捧げよう。
もうあの日々のように無知を理由に罪悪を重ねる事の無いよう、自分の頭で考え、自分の意志で手を汚すのだ。
けれど、そんな決意とはうらはらに、まだまだ私が大佐の役に立てる日は遠そうだった。
有事の際は私の汚れた腕も何らかの形で生かす事も出来るだろうが、事件が起こらない限りデスクワークが主な仕事となる。
ホークアイ中尉に助けてもらいながら何とかこなしている現状が何とも情けなかった。
それと、何よりも私はまだホークアイ中尉以外の人と仕事での必要最低限以外殆ど話をした事が無かった。
私のせいで司令部内の和を乱すような事があれば、それこそ申し訳ない。
しかし、私の出自を皆知っているようであるし、かつて彼らの同胞をたくさん殺めて来た私はきっと恨まれているはずだ。
私が彼らに気軽に話しかけていいものとは到底思えない。
私など憎まれてしかるべきだと思うが、場の空気を悪くするのも困ると云うジレンマもまた私の足を竦ませた。
…中尉も、私を恨んでいるのだろうか。
「ああ、そうだわ、伍長。
貴方まだ市街の巡察には出た事が無かったわね?」
「はい。まだです。」
司令部名物だと云う薄いコーヒーを少し口に含み思考の沼に沈んでいると、ふと中尉の声で意識を戻す。
「午後からハボック少尉が出る予定になっているのだけれど、
一緒に出る予定だったファルマン准尉に別の仕事が入ってしまったみたいなの。
ちょうどいい機会だし、同行していらっしゃい。
渡してある書類はまだ締め切りに十分間に合うものだから、心配しなくて大丈夫よ。」
「は、はい。」
隠しきれずに少し返事に動揺が滲んでしまい、ばつの悪い気持ちになる。
中尉は少し困ったように笑い、大丈夫よ、ともう一度繰り返した。
二回目の「大丈夫」は、私が中尉以外の人間になかなか馴染めずにいることを察しての言葉でもあるようだった。
もともとそんなに社交的な性格でもなく、軍務の緊張と負い目も手伝ってますます口数が減っている自覚もあり、
声を掛けてくれる中尉の優しい心遣いにさえ何だか肩身が狭いような気になってしまう。
解っている、こんな態度は卑屈なだけで、けしていいものではないのだ。
いくつか言葉を掛けてくれ、その後中尉はすぐ自分の仕事に戻って行った。
私もどくどくと変に不規則な鼓動を御しながら再び書類に向かい、心を落ち着ける為にまた一口、コーヒーを口にした。
あまりコーヒーの苦さは得意ではない為に職場以外では滅多に飲まないので、此れが不味いのかどうかの判断はつきかねた。
むしろ薄い方が苦みも減って私には飲み易いものかもしれない。
中尉の心遣いが融け込んでいるような気がして、いつもよりほんの少しだけ甘く感じられたような気がした。
賑わう食堂の片隅で一人でひっそりと昼食を摂った後、午後の始業迄まだ時間はあったが、少し早めに司令室に戻って来た。
ぽっかり開いた昼休みの時間の使い方がどうにも苦手で、休憩しようにも人が居る所ではとても気が休まらなかった。
それならばいっそのこと仕事をしてしまおうと思い、司令室内で談笑する数人の同僚達を横目に一人静かに机に向かった。
幸い仕事なら沢山有る。まだまだ手順を確かめながらになるので処理速度は遅いから、
終わってしまって手持ち無沙汰になることも無いだろう。
「真面目なのはいいけど、あんまり頑張りすぎっと後がしんどいぞー。」
数枚の書類を見比べながら真剣に紙とのにらめっこに勤しんでいると、
突然背後からのんびりとした低い声が降って来て、思わず肩がびくりと跳ね上がった。
驚きで呼吸もままならない内に反射的にばっと後ろを振り返ると、
だるそうな様子で煙草を銜えた背の高い同僚が間近にぬっと立っていて、眼を見開いたまま咄嗟に言葉が出てこなかった。
こんなに背後に立たれたのに、気配が全くしなかったのはさすが軍人だと思う。
それともただ単に私が気配に鈍くなったのだろうか。
仲間と居た頃はアジトにいても常に警戒を怠らないようすることを教えられた。
眠る時でさえ常にナイフを身に付け、銃を枕元に置いたし、
そうでなければライフルを抱きしめて眠る事もしょっちゅうだったのだが。
「…いや、そんなに驚かれるとは思わんかった。わりぃわりぃ。」
よほど私の顔に動揺と驚愕がありありと浮かんでいたのだろう、
ハボック少尉は全く悪びれた様子も無く煙草を一服して呆れたように笑う。
少尉に話しかけられたのは初めてだな、と思いつつ、はっと我に返って返事をする。
「い、いえ、こちらこそ申し訳有りませんでした。お気遣い、ありがとうございます。」
私の固い口調に少し肩を竦めてみせ、彼はおもむろに私の隣の椅子にのんびりと腰掛けて、灰皿を引き寄せた。
少なくともその様子に私への敵意だとか負の感情は感じられなかったので、内心私は安堵した。
好奇心いっぱいに探るような様子も無かったので、
彼がただ単に普通に「同僚」に対するように話し掛けてくれていることがわかる。
午後からは彼との市街巡察が入っている事も有り、其れはとてもありがたい事だと思った。
「あの、少尉…」
「ん?ああ、悪い、煙いか?」
「えっ、いえっ、全然、そんなことはっ…。
…いえ、ご、午後からの市街の巡察に、私も同行させて頂く事に成りましたので、どうぞ宜しくお願い致します。」
飄々とした少尉のテンポについて行きそびれたまま、私は先ほどからボロを出してばかりだった。
そんな私のぐだぐだぶりが可笑しかったのか、彼はからりと笑って、こちらこそ、と戯けたように云った。
教官に教えられた通りの言葉遣いは一年の間に大分身に付いては来たが、
私はどうしても慌ててしまっていつも言葉が足りなくなる。
もう少しまともな受け答えが出来るようになりたいと少し歯痒く思った。
「そう緊張すんなって。
外回りするくらいで事件に出くわす事なんざ滅多にないしなぁ。
座ってばっかじゃ肩が凝っちまうしまぁ気楽に行こうや。」
「はい。有り難う御座います。」
「…ほんとお前真面目だなぁ…。」
机に肘を掛けて頬杖を付いたまま、呆れたように云われて、私はどう答えて良いのか解らず困惑するしかなかった。
私が真面目かどうかという以前に、上官に対してきちんとした受け答えをする事をさんざん叩き込まれたのだから、その辺りは大目に見て欲しいものだ。
少尉に話し掛けられた為仕事の手を止めていたのだが、このまま少尉が立ち去る迄手を止めるべきか、
そのまま作業に入るべきかを迷っていると、少尉は構わず私になおも話し掛けてくる。
「仕事にゃもう慣れたか?」
「まだまだ付いて行くのに精一杯です。
ですが、ホークアイ中尉が丁寧にご指導下さるので、少しずつではありますが覚えられる迄になりました。」
「はは、中尉はけっこう厳しいだろ。」
「いえ…右も左もわからない私にも根気強く教えて下さいますので、とても感謝しています。
ご自分のお仕事もおありですのに、申し訳ないくらいです。」
「んーまぁでも中尉の主な仕事は大佐の見張りだろ。
その大佐も、 伍長が来てから此処最近あんまさぼらなくなったって云ってたから、
むしろ、実は案外感謝されてたりしてなぁ?」
「はぁ…」
そう云って笑う少尉の言葉に、やはりどう答えるべきか解らずについ言葉を濁してしまった。
嗚呼、教官にこんな気の抜けた返事を聞かれたら、きっとすごく怒られるだろうなと思うと、少し背筋が冷えた。
結局始業の時間に成る迄、ハボック少尉は私に何らかの軽い話題を振り続け、
私が質問されたことに答えると云う事を繰り返していた。
掛けられる言葉は何の当たり障りも無いような事ばかりで、
後半は殆ど仕事の愚痴を聞かされていたような気がする。
始業の鐘が聞こえてきたのに気付いて、少尉は面倒くさそうにのんびりと立ち上がり、
じゃあ外回りにでも行くか、と私に準備するよう云って自分のデスクに戻って行った。
昼下がりの街は穏やかな陽射しの元でゆるりと暖かく、行き交う人々の足取りも心なしか軽く見える。
ハボック少尉が云った通り、東部はあまり治安は良くないものの、
そうそう毎日こんな街中で物騒な事件が起こる訳でもない。
パトロールを兼ねて街の施設や住民達に不備や困った事は無いかを見て回り、
時折顔なじみらしい店の店員に声を掛けられて軽く挨拶したりしながら、
とりあえずは私達は何事も無く穏やかに市街の巡察を行っていた。
東方司令部の軍人は比較的街の者に評判がいいらしいことは知っていたが、
少尉に対して気さくに話し掛けてくる露店の店主や通り掛かりの住民達に、私は少し驚いた。
声を掛けられた少尉もまたのんびりと笑って挨拶を返したりして、
時には私に向かって、おや、新人さんかい、と云って、
労いだか励ましだかの言葉を掛けて陽気に笑って立ち去る者もいた。
仲間と居た頃は街から少し離れた隠れ家にいたし、顔は割れていないとは云っても、
やはり大手を振って市街を歩き回る事は躊躇われた。
街がこんな所である事を、知らなかった。
その自分の無知さを恥じて、私は殆ど自分に対する憎しみに近いものさえ感じていた。
軍は敵だと教えられ、其れが世界の真実だと鵜呑みにしてしまったのは自分の罪だった。
自分の眼で見もせず、自分の耳で聞きもせず、自分の頭で考えようともしなかったその結果が、
進みも戻れもしない罪に自分を沈めていった。
「敵」だと一括りにせず、その中にあるものの一つ一つの本質をきちんと自分で確かめるべきだったのに。
だが、強くそう感じる一方で、仲間に拾って貰った事も、そうして彼らと出会えた事も、
彼らにたくさんの事を教えてもらい、与えてもらった事も、後悔した事がないのも事実で。
端から見れば矛盾していたとしても、私と云う存在を形成して来たものの全てが愛しいと思う事を止める事は出来なかった。
憎まない、赦す、とあの日心に決めたけれど、そもそも誰かを憎む事も責める事も、私にできるはずが無かったのだ。
憎むべきものがあるとすれば、いるかどうかも知れない神様とやらと、もうひとつは、私自身だ。
「驚いたか?」
町並みを眺めながら思索に耽っていたところにふいに声を掛けられ、隣でやや背を丸めてのんびり歩く少尉を見上げた。
彼は随分と背が高い。見上げながら歩くのは少し大変だった。
「…はい、少し。」
「はは、まぁ東方司令部を割と好意的に見てくれてる住人が多いからなぁ。
特に大佐なんかやたら女性受けがいいから、視察になんか出たらしょっちゅう声掛けるわ、掛けられるわで。」
「そうみたいですね。」
答えながら、ぼんやりと公園での事を少し思い出していた。
休憩だか視察だったかは知らないが、あの時も正体も知れない私に対してにこにこしながら甘ったるい言葉を吐いていた。
多分マスタング大佐にとって其れは脊髄反射くらい当たり前の事なのだろう。
「 …大佐と公園で会ったって、云ってたもんな。」
ほんの一瞬だけの妙な間を空けてそれはさりげない口調で云われたが、
その間が、云うべきかどうか発言を少し逡巡した少尉の考えを物語っているように思えて、
思わず少尉の顔を再び見上げると、少しばつの悪そうな顔をして彼は僅かに肩を竦めてみせた。
私は静かに正面に向き直り、ただ前を見てそのまま少尉の隣を歩き続ける。
「はい。二回程お会いしたことがあります。」
罪を認めることは、とても苦々しい作業だった。
けれどその苦さも、犯してきた罪の重さを思うと、何でも無い。
少尉が暫し黙って何か云いた気に私を見下ろしているのを視線で感じたが、
私達は暫くの間黙ったまま歩を進めていた。
ことことと石畳に靴を鳴らす音が雑踏のノイズに溶け出す。
「…聞いても良いか?」
暫くして、ぽつりとそう尋ねられたので私がどうぞと促すと、小さな溜め息が降ってくる。
少尉は、聞くべきではなかったのかもしれないが自分の性格上そういう曖昧なのが気持ち悪いのだ、と云うような前置きと共に口を開いた。
「正直なとこ、お前、今でもまだ大佐が憎いか?」
其処迄直球で尋ねられるとは思わなかったので少し眼を見開き唖然として少尉の顔を見遣ると、
感情の少ない飄々とした顔で彼はただ前を見ながら、相変わらずの猫背でのんびりと歩いていた。
「お前は覚えてないだろうけど、俺、一年前、まぁ、あの場にいた訳よ。」
あの場、と云うのは、恐らくは私が司令官室を出てゆく間際についた嘘の事を指しているのだろう。
大佐に対してあんなことを云ったのを知っているのは多分、
私と大佐、ホークアイ中尉、そして私を両側から支えていた二人の軍人だけだ。
と云う事は、私の腕を掴んでいた軍人のどちらかが、ハボック少尉だったと云う事になる。
あの時は自分の事で精一杯で、私を司令官室から連れ出したのがどんな人だったかなんて気にする余裕も無かった。
腕を掴んで引き摺って行ってくれたのが少尉だったのかと思うと、何だか少し恥じ入るような心地だった。
もう一人の軍人も、多分司令部内にいるだれかだったのだろう。
大佐が憎いか、と、彼は問う。
いずれはあれは嘘だったのだと大佐に告げるつもりではいるが、
今此処で彼に其れを云ってしまっても良いものか私は少し迷ったが、
大佐の最も信頼する部下の内の一人である少尉に偽りを述べるのは、
大佐に対しても少尉に対してもとても失礼な事のように思われた。
「…私の言葉を信じるかどうかはハボック少尉の自由です。
…私は最初から、一度もマスタング大佐を憎んだことはありません。」
「…でも、あの時はっきりと憎むって云ったよな。」
「はい。全身全霊を掛けて、嘘をつきました。」
「何で。」
「大佐がそれを望んでいらっしゃるように見えたからです。
私に忠実な狗となる事を提示なさったのは大佐ですが、其れを選びとったは私です。
無理矢理飼い馴らされたのではなく、私が自ら手綱を差し出して従う事を決めたのです。」
それに、と続けながら、私は穏やかな気持ちで静かに少尉を見上げた。
少尉は私を見下ろしながら、驚いたように少し眼を見開いた。
「あんなに不器用にやさしいひとを、憎める訳がありません。」
「…お前が笑ったとこ、初めて見た。」
驚きを含ませながらまじまじと眺めてそう云われ、初めて私は自分がぎこちなく微笑んでいた事に気付いた。
そう云えば、私はもうずっと笑い方を忘れていたように思う。
しかし遠慮無くじろじろと眺められて何だか居心地が悪くなり、私は少し俯いた。
「…少尉は、あの時大佐が仰った言葉を、覚えていらっしゃいますか?」
「うん?」
「『私の忠実な飼い狗になれ』と仰ったんです。
『軍の』、ではなく、『私』と。」
その言葉の意味に気付いた少尉が、あー、と納得とも何とも云い難い声を発して何度も頷いた。
そうして心底呆れたように笑う。
「なんつーか、あの人らしいわなぁ。」
そう云いながらハボック少尉は私の頭をくしゃりとやや乱暴に撫でた。
お陰で髪が盛大にぐしゃぐしゃになったし、押さえつけるように手加減無く撫でられてよろめいたが、
上官に口答えするなとしっかり教え込まれていた私は、抗議することもなくただ黙って髪を直した。
ささやかな抵抗として、あぁすまんすまん、と全く悪びれない笑いを含んだ謝罪を黙殺した。
それからも、少尉は何かにつけ私に話題を振っては私がそれに答えると云う事を繰り返しながら、巡察を続けた。
その流れで、私は役に立てるよう少しでも頑張りたいのだという話になり、
まずは目の前の巡察をきちんとこなさなければ成らないのだというような事を云うと、
彼は変わった動物でも見るような眼をして私を見遣り、お前ってほんと真面目だなぁ、と再び呆れたように呟いた。
(08.10.3)
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