08泣きわめく


 

 

 

 

泣いて喚いて縋って嘆けば君はそれで満足なのかと何の感情も込めない声で淡々と問えば、

そうではない、と、彼もまた淡々と云って小さく眼を伏せた。

長い睫毛が月明かりを受けて其の青白い頬に影を落とし、私は其の様子がとても美しいことを知っていながらも、

彼の方を見ようとはせず、同じように視線を伏せて静かに唇を結んだ。

 

「貴女は泣いていいんですよ…。」

 

「忍が涙を見せることはできないよ。」

 

さんは確かに忍ですが、其れ以前に、人間なんです。」

 

「でも私は人間である以前に道具なんだよ。」

 

「貴女は道具なんかじゃない、」

 

「それにね、ハヤテ、」

 

少しだけハヤテの平坦な声が波紋を描きかけたのを遮るように、私は少しだけ穏やかな声音を作った。

 

「ねぇ、知ってる?
 そう云いながらも、泣くこともできない君の方が、よほど可哀想なのよ。」

 

微笑んで彼に顔を向ければ、ハヤテは小さく顔を歪ませて私を見つめた。

そんな可哀想なハヤテがかわいくて、私は笑みを浮かべたまま、

隣に座るハヤテの頭を胸に抱えるように優しく抱き締めた。

 

耳の奥では、昼間聞いた、張り裂けんばかりの悲痛な想いの込められた誰かの慟哭が鳴り響いている。

それほどに故人を惜しんであげられる人がいるならば、私の眼から零れる生理食塩水などもう必要ないだろう。

 

腕の中で大人しく私に抱かれているハヤテは、あんな風に泣くことなどきっと絶対に出来ない人なんだろう。

必要とあらばそうすることも出来る私と違うのは、其処なのだ。

泣けるけど必要ないから泣かない私と、泣いてしまえれば少しは楽になれるだろうに、

それでもどうして泣くことが出来ないハヤテ。

私達のどちらがよりかわいそうかなんて考えるのはナンセンスだ。

だから私は少しでも彼の鼓動が跳ねれば良いのにと思った。

 

慟哭の変わりに、鼓動よ、その胸を突き破れ。

 

 

 

 

 

 

 

(10.3.14)

 

 

 

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