06ひっぱる
何時にも増して無表情なのに、異常な程に切羽詰まった様相に見えた。
ハヤテは無言を貫いたまま、訳が分からず困惑に瞬きを繰り返す私の二の腕を、
骨が軋む程に強くぎりぎりと締め付けながら容赦なく引き摺っていく。
男にしては華奢に見える此の細い指を持った手は、
見た目からは想像もつかないような力を込めて私の腕を引っ張っている。
普段は幾分私よりも体温の低い手が、何故か今はひどく熱を持っているような気がして、ますます私は困惑する。
どうしたんだ、とも、離してくれ、とも云うに云えず、
ひたすらに私を引き摺って行くハヤテに、足を縺れさせながらよろよろと付いて行くことしか出来なかった。
月も出ていない夜に歩くにはあまり適さないであろう人気の無い路地ばかりを選んで進む。
そうして辿り着いた先は、ハヤテの自宅だった。
鍵を開けるのも扉を開くのも間怠っこしいとでも云うように開け放たれた先に放り込まれ、
ハヤテ自身もさっと玄関に身体を捩じ込んで後ろ手に鍵を掛けたのが見えた。
常ならば慇懃過ぎる程に丁寧で几帳面で、穏やかに凪いだ眼をしているハヤテが、一体どうしたことだろう。
あまりに彼らしく無い乱暴な行動に不安を覚えて彼に声を掛け様としたのだが、
其の声は言葉になる前にハヤテの唇に噛み殺された。
あまりに全てが唐突だったものだから、反射的にのしかかる彼の胸をぐっと押し返すと、
其の手は捻り上げるように押さえ付けられて舌を噛まれた。
実際には何も分かっちゃいないのだが、何だか総てが分かったような気分になったので、
私はぴたりと抵抗をやめてただ大人しくされるがままになっていた。
私の臓腑を喰い荒らすようなハヤテの行動を享受しながら、私は笑い声を上げた。
(10.3.14)
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