13徹底的に


 

 

 

 

敵は4人。味方は自分を含めて三人。数の上でも何の問題も無い。

実力の上でも、向こうは中忍程度、味方は二人とも特別上忍だ。

油断さえしなければ確実に始末できる。

 

手持ちの武器は少々心許ないが条件は対象も変わらない。

冷静に対処して先を読んで執拗に追い詰めて罠に掛けて。

死んだように冷めた眼で対象の位置を確認しながら、

気配を殺し意志を殺し人間性を殺し、私は忍という一つの道具になる。

 

自我を消して死を恐れず、ただ任務の遂行のみを見据えて動く機械的な自分の身体を、

斜め上から見下ろしているような気分がする。

自分が自分でなくなっているのを外側から見るこの感覚は、忍になってからはよくあることだった。

 

遠くで交戦している気配が二つ。となれば対象は残り三人。

いや、もう一カ所、分かりにくいが一つ何処かで気配が消えた。

ハヤテかゲンマのどちらかが対象を屠ったのだろう。味方がやられたとは最初から考えていない。

彼らが対象程度の者達に遅れをとるとは到底思えない。残る対象は二人。

 

そうして、30m向こうの木の陰に対象を確認し、極限迄気配を殺し足音を消して忍び寄り、

対象が私に気付いた時、そいつは既に喉笛から血を噴き出して崩れ落ちていた。あと一人。

 

そして、近くに気配を感じていた最後の一人が、死体となった対象を放り捨てた瞬間に、私の背後から襲いかかって来た。

私はそれを振り向き様に一撃、変わり身を使って其の背後から更に一撃。

二撃目に投げつけたクナイが肺を傷つけたのか、血を吐いてがくりと地面に跪く。

 

殺気を漲らせるその顔には死相が色濃く、私はその命に止めを刺す為に、

腰元から引き抜いた短刀を対象の首目掛けて投げつけた。

 

転がったそれはまるで椿の花のようだ、と。

 

無感情にただ足元に転がった二つの屍骸を見下ろしていると、

それぞれに仕事を終えたゲンマとハヤテが向こうからやってきた。

終わったか、と声を掛けるゲンマを無視して、

私は既に灯火を消している二つの身体に、けれどそれでもクナイを投げた。

 

「…なっ!おい、何してんだお前!!」

 

ゲンマが顔を顰めながら慌てて私の利き手を掴んで押さえ付けた。

其処で初めて赤を撒き散らした地面から視線を上げると、ゲンマとハヤテが険しい表情で自分を見ている。

其れを見て、私はだんだん外から自分を見ていた自分が、自分の中に戻って来るのを感じた。

 

「任務内容は対象の殲滅なので。」

 

茫洋とした言葉を噛むように呟くと、ハヤテが、もう死んでいます、もういいんですよ、といつもの無表情で静かに云った。

任務終了ですか、と云うと、ハヤテは今度は黙って頷いた。

私も頷き返した。

 

木々の間を飛ぶように駆けながら里に帰還する道中、

私は先を行くゲンマとハヤテが二人で何かを話しているのをずっと聞き流していた。

こいつは向いてない、とか、決めるのは彼女です、とか、戦力としては申し分無いが、とか、

云っても聞きませんよ、とか、いろいろと勝手なことを二人でぼそぼそ云っていたが、

結局暫くしたら皆無言になってしまった。

 

 

 

「ねぇ、」

 

漸く里迄戻って来て、機械的に報告書を上げて帰路に着く。

ゲンマは詰所に寄って行くからと云って先に別れた。

そして私に背を向けたハヤテに、思い出したように声を掛けて少し引き止める。

 

私はちゃんと自分の中から世界を見ている。

其れに少し微笑んで、私は約束してね、と先に彼にお願いしておくことにした。

 

「その時がきたら、私も、徹底的にころしてね。」

 

微笑む私を見つめるハヤテは、何かを云い掛けて止め、奇妙に顔を歪めて眼を細めた。

 

狩人になる覚悟はしてある。

そして、いつか自分が獲物になる日が、わたしは待ち遠しいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

(10.3.14)

 

 

 

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