B級悲劇











僕、シリウス・ブラックと、彼女、は、彼女の部屋でとある三流の悲劇映画を見ていた。


も僕も、ありふれた映画は月並みでつまらないと考える主義で、

ラヴロマンスが嫌いで、サスペンスが好きだった。

(ただ、まぁ、そのあたりの趣味くらいしか、僕らの間には共通点はなかった。)


だけど君が友人に見ろと押し付けられたと、苦々しい顔で再生したこの古い映画のヴィデオ。

再生ボタンをだるそうにのろのろと押す彼女の様子が可笑しくて僕は笑った。

彼女は厭そうな顔をして僕を鋭く睨んだ。







モノクロの、本当に古い映画で、演出も演技も、まるで何処か色褪せた過去の産物のようだった。

迫真の演技、と、まではいかないような、適度にけだるい映像。






ふと、僕は思い出したように眼を開くと、映画は何時の間にか終幕に向けて展開を歩んでいた。

(意識が途切れる前は、確かまだ物語は序盤だった気がするが。)


色の無い世界で、悲劇のヒロインはその息を途絶えさせ、ヒーローは亡骸を掻き抱いて泣いた。

亡き愛しい者の名を、何度も何度も呼びながら、抱き締めながら、力ない身体を揺すりながら。


古びたノイズ混じりの画面が真っ暗になり、読みにくい小さな潰れた文字のエンドロォルが流れる。

悲し気な音楽さえわざとらしくて、少し僕は忌々しくて、軽く舌打ちをした。


隣を見ると、眠そうな不機嫌顔の彼女がソファーに沈んでいた。

表情を見なければ、映画のあのヒロインの様にもしかしたら死んでいるかもしれないと思える程、

一切身動きをしないで、ゆっくりと流れ出すエンドロォルを冷ややかに眺めている。


「死因は銃殺だった。」


ふぁ、と小さく欠伸を噛み殺しながら君は云う。

観賞後の彼女の感想は、ヒロインの死因だけだった。

それが如何にも彼女らしくて僕はすてきだと思う。


どうせ僕も君も最初と最後だけしか観ていないんだ。

物語が分かるはずもなかった。


「なぁ、銃ってなんだ。」


「痛い玩具。」


「・・・ふーん・・・。」


「冗談よ。」


ふふ、と笑って、君は親指を上に立てて、人指し指を僕の額に突き付けた。

恐らくは銃の真似事なのだろう。


「魔法使いも、魔女も、ごくごく物理的に、脳漿ぶちまけたら、そりゃあ死んじゃうよね。」


彼女はBANG!と僕を「殺し」た後、今度は僕の手で「銃」を作り、自分の額に突き付けさせた。


「引き金を引いて見せてよ、シリウス?」


「お前が死んだら俺はとても生きて行けない。」


「三流、」


「同感だ。」


「じゃあさ、私が死んだらあんたも死ねば?万事解決ーってね。」


彼女は少し嘲笑するように口元を歪ませ、さも可笑しそうに云うと、

彼女の額に突き付けさせた僕の手を額から離し、僕の手首に軽く口付けた。

生暖かいその唇の感触に、厭なものではないのだが、軽く膚がぞくりと粟立った。


彼女がソファーからすっと立ち上がり、僕を見下ろして尋ねた。


「晩飯喰ってく?」


「ああ、」


「でもうちにはキャットフードか人間用の食べ物しか無いわ。」


「うわ、ムカつく。いっそのことお前喰ったろか。」


「骨迄喰うって約束するならいいけど?

 でも血の1滴でもお残ししたら、痛ーいお仕置が待ってるわけだ。」


不敵な彼女がキッチンへ消えたので、ふと視線をテレヴィへと戻すと、

エンドロォルは既に止まっていて、煩い機械音と共にテェプが巻き戻されていく。



リセット、リセット、リセット。

テェプが巻かれる度にヒロインは何度でも死んでいく。

テェプが巻き戻される度にヒロインは息を吹き返す。

テェプの中で、何度でもリセットされて死を味わう、それこそ本当の悲劇。


滑稽な演出の要らない、裏側に生じたより真実味を帯びる悲劇は、

僕と君の記憶の片隅にも留まらないままで、

何度も繰り返され続けるのだろう。


そして、僕らには所詮、そんなこと、どうだってよかったのに。


あぁお腹が空いた。

がいるキッチンからいい匂いが漂ってくるので、

僕は生温い性欲にも似た食欲を感じた。
















Fin.




悲劇。滑稽。欲。そういうこと。

だるさの心地よいこと。

(03.9.11)

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